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ダーコーヴァ年代記

M.Z.ブラッドリーの異世界物語の傑作

ダーコーヴァ年代記はMASSEさんに教えてもらいました。
創元SF文庫から出ていたけれど、書店からは姿を消してしまって入手困難とのことで、古本屋でも滅多に見つかりません。
いくら面白くても、読めないんじゃ仕方がない。でもMASSEさんがLX用のダーコーヴァデータベースを公開しているくらいだから、ずっと気にはなっていました。

大阪の茨木に住んでいた頃、茨木市駅前の古本屋で、ついに見つけました、ダーコーヴァ年代記の「ダーコーヴァ不時着」「炎の神シャーラ」「オルドーンの剣」の三冊。
最初、「ダーコーヴァ不時着」を読んだときにはあまりピンとこなかったのですけれど、「オルドーンの剣」ではまりました。面白い!


ダーコーヴァ年代記邦訳一覧

作者はマリオン・ジマ・ブラッドリー(Marion Zimmer Bradley)。
ダーコーヴァ年代記が代表作、他にはハヤカワ文庫で「アヴァロンの霧」シリーズ数作が出ているようです。ダーコヴァは創元文庫でしか読めません。
書店での入手はたぶん不可能ではないかと思います。版元切れで再版の予定なし。
古書店で、創元推理文庫SF(後に創元SF文庫)で背表紙が赤いものを探せば、運がよければ見つかるかもしれません。
図書館で探すのが一番だと思います。大きな図書館でも、たぶん開架にはないから、蔵書検索して書庫から出してもらう形になるかと思います。

以下、ダーコーヴァの歴史順に並べました。

以下2冊は外伝です。


ダーコーヴァの歴史

ダーコーヴァ年代記は、様々な時代の上で物語が展開されていきます。ダーコーヴァの歴史に沿って並べると一望しやすいようです。
といっても、続き物というわけではなく、一作一作が完結した物語と言った方が近いようです。
たとえばダーコーヴァを全然知らない人がこれから読むのなら、どの一冊から読んで、どういう順番で読んでも、特に支障はありません。
それでも聞き覚えのある人物名が出てきたりするところが、また楽しみなのですけれども。

●混沌の時代−百王国時代

ストームクイーン〜ホークミストレス〜キルガードの狼は、コミンの統治や「塔」によるララン、マトリクスの管理がなされる前の「混沌の時代」の物語です。
後のコミンの統治時代が先に書かれ、やがてそれに先立つ混沌の時代のエピソードとしてM.Z.ブラッドリーによって書かれたようです。

有徳者ヴァージルによる「盟約」で、混沌の時代からコミンの統治、塔によるマトリクスとラランの管理の時代に移ります。

●コミンの統治と没落の時代

禁断の塔〜惑星壊滅サービスではダーコーヴァと地球帝国との文化の衝突が背景にあります。
地球帝国の文化に汚染されない「コミン」の統治が少しずつ崩れてゆき、オルドーンの剣ではコミンはまるで幕末の徳川幕府のような状態になっています。
「コミン」とはラランのちから(超能力)を持つテレパスのことで、ダーコーヴァでは七大氏族があり、コミンによってダーコーヴァは統治されています。ハスター家がコミン評議会の中心で、特にこのコミンの没落の時代では、若きレジス・ハスターがいくつかの物語に渡って登場しています。
といっても、レジス・ハスターがダーコーヴァの主人公ではなく、ダーコーヴァ年代記ではほぼ一作ごとに主人公にあたる人物は変わります。

ダーコーヴァ年代記を読んでいると、家系図を作りたくなります。

●その他の時代

ダーコーヴァ不時着は2千年前のダーコーヴァのはじまりを描くものです。
ナラベドラの鷹や時空の扉を抜けては他のダーコーヴァとの整合性から言うと、外伝と言ってよさそうです。

各作品について

●ダーコーヴァ不時着
ダーコーヴァの起源が描かれます。
地球の初期の移民船の不時着の様子から、ダーコーヴァの人類は実は地球人が起源だと示されます。ダーコーヴァの非人類はもとからダーコーヴァの生き物だったようで、非人類の中でも、特に「チエリ」との混血によってコミンが生まれたもののように読めます。
「チエリ」が何かという話は、「惑星壊滅サービス」や「はるかなる地球帝国」でも触れられます。
●ストームクイーン
混沌の時代の物語
天候(特に雷)を操るロックレイヴンのちからを持ったアルダランの城の王女。恐れられ、甘やかされて育ってきたが、しっかりしたレロニスの家庭教師がつき、成長してゆく。
しかし、戦争にそのちからを使うことによって最後は悲劇的な結末に・・・。
未来予知能力者が描かれているが、たくさんの起こりうる未来を見てしまって神経衰弱のようになってしまう描写が面白い。この未来予知能力はキルガードの狼に出てくる「有徳者」ヴァージルに受け継がれている。
●ホークミストレス
「はるかなる地球帝国」が少年の友情と旅の物語として良質のジュブナイルなら、こちらは少女の旅と成長を綴った物語。ダーコーヴァシリーズの中でもとてもお気に入り。
動物との交感能力を遺伝で受け継いだ鷹匠の娘が、父親の決めた政略結婚に従わず、家を飛び出して・・・。
鷹匠としてたよりない兄よりずっと素質を持っていたり、交感して鳥の視点で飛んだり、少年を装い隊に付き従って旅したりします。つい宮崎アニメを連想してしまいました。もちろん、こっちのほうがずっと先ですけれど、ぼくが読んだのが遅れたので、印象が逆転してしまっています。
宮崎アニメなんかと決定的に違うのは、女としての成長も描かれているところかな。
ブラッドリー女史はダーコーヴァシリーズではあまり女性解放問題を表にしてないと言われています。
それでも、女性の自立については、フリーアマゾンなどで触れられていますし、テレパスの内面描写でも、いわゆる男が書いた女の話と違うと感じます。
ダーコーヴァ年代記がただ読み捨てるだけでなく、読者に深く残って行くのはこのあたりの奥行きじゃないでしょうか。
●キルガードの狼
「狼」といわれる軍人の年代記風かと思いきや、これもやはり内面の世界の物語に落としています。
禁断の塔でちらっと出てきたヴァージルが物語に登場します。
この後、「盟約」がダーコーヴァの世界を変えてゆくのでしょう。
●ドライタウンの虜囚
ヘラーズの冬の前編。
ダーコーヴァ年代記中の会話では何度も出てくる「ドライタウンの女たち」に無理やりならされてしまった女性を救出する物語。
原書では、ヘラーズの冬と合わせて一作のようです。
●カリスタの石
(未読)
●ヘラーズの冬
(未読)
●禁断の塔
カリスタの石の続編。
ダーコーヴァは異界の超能力ものといえるけれど、SFというよりファンタジー寄りで、超能力者の人間としての内面を描いている点が凄いと思います。
テレパスの日常の内面を描き、当然その文化も地球帝国とは異なっていて説得力があります。
ここがダーコーヴァ年代記にすっかりはまってしまう理由なのかもしれません。
「禁断の塔」は、地球人とダーコーヴァのコミン(しかも、「塔」の監視者)の結婚を通して、文化の違い、愛のかたちの違いと融合を克明に描いていきます。これで文庫2冊延々楽しめるのだから凄いものです。
●はるかなる地球帝国
地球人の少年ラリー・モントレーとダーコーヴァのコミン、オルトン家の少年ケナード・オルトンの出会い、友情と旅の物語。
地球帝国の影響をほとんど受けてない時代のダーコーヴァ。重苦しくなく読めるのが良いです。
最後に出てくるチエリがまた良い。
全然別の話だけれど、雪の中を進む旅は、斎藤敦夫の「グリックの冒険」を思い出してしまいます。
●炎の神シャーラ
ダーコーヴァ宇宙港の管制官地球人ダン・バロンは幻覚に悩まされ、仕事でヘマをしてしまう。やがてコミン評議会に招かれて行く仕事に左遷されるが・・・実は幻覚は「ストーンのストーン」によるものだった・・・。
地球人ダン・バロンよりも、むしろストーン家の次女メリッタ・ストーンの冒険の印象が強いです。ダーコーヴァではルーを除くと、女性の登場人物の方が魅力的に感じます。
シャーラのマトリクスを使う話。シャーラのマトリクスは昔、山の炉の民が利用していた炎のマトリクスで、強大な力を持っています。
惑星破壊サービスではおばあちゃんの<監視者>デシデリアが若い頃の話でもあります。
●宿命の赤き太陽
ダーコーヴァにやってきたジェフ・カ−ウィンは、実はダーコーヴァのコミンと地球人の混血だった。ダーコーヴァのテレパスの<環>に参加することになったジェフ・カーウィンだが、実は背後に地球帝国の陰謀が・・・。
●ハスターの後継者
「オルドーンの剣」に続く前段の話。「オルドーンの剣」は話の枝葉を切り詰めすぎていて、一読してもわけがわからないけれど、これを読むと背景がよく分かります。
ルー・オルトンとレジス・ハスターの少年時代から、ルーがカダリンと友になり、片腕を失ってしまうシャーラの悲劇までの、知りたい事情が全部描かれていてうれしいです。
これを代表作としても良いかもしれません。
●惑星救出計画
旅の話。というかジェイ・アリスンの二重人格もの。
48年熱って、他の作品ではどーゆー扱いなのかしら?ダーコーヴァ年代記って、よくよく考えるとつじつまが合わない部分がけっこうあるような気がします。
トレイルマンという非人類もなかなか変わった設定ですね。
作品自体は、地球人がダーコーヴァで(レジスらと共に)旅をするという典型的なパターンの上、冷酷なドクター・ジェイと山男のジェイスンの二重人格で綺麗にまとまっているので、ダーコーヴァ年代記の邦訳一冊目に選ばれたのも納得の良い出来だと思います。
●オルドーンの剣
最初にはまったのがこれだからか、やっぱりダーコーヴァ年代記というとこれがクライマックスだという気がします。
ダーコーヴァ年代記の中で、マリオン・ジマー・ブラッドリーが最初に構想を持ったのがこの物語だそうです。なんと15歳の頃からという話です。そう思って読むと、シャーラとオルドーンの激突、レジス・ハスターが白髪になる伝説のシーンといい、確かにロマンチックな物語なのかもしれません。

ルー・オルトンは強力なオルトン家のちからを持つコミン(テレパス)。オルトンのちからは、思っただけで人を殺すこともできる強制交感能力です。
「オルドーンの剣」では、ルーがダーコーヴァに帰還する所から始まる、激しい戦いの物語です。
シャーラの一件で妻と片腕を無くして、今は亡き父ケナード・オルトンとダーコーヴァを離れていたルー・オルトンは、コミン評議会に呼ばれてダーコーヴァに戻ってきます。
ルーがケナードとともに外宇宙に出るときに持ち出したシャーラのマトリクスを、かつての友で今は敵のカダリンに奪われ・・・。
●惑星壊滅サービス
コミン統治の終焉。ダーコーヴァの地球帝国に対する独自性が保てなくなってしまう時代の物語。
独立した惑星経済を混乱に陥れ、壊滅させ、第三者の利権介入を促進させる非合法企業、惑星壊滅サービス。
ダーコーヴァをダーコーヴァたらしめている生態系そのものから破壊してしまうような仕事を請け負う企業によって、土は死に、コミンとその後継ぎはことごとく暗殺されていく。終わりゆくダーコーヴァの歴史に直面し、レジス・ハスターは・・・。

文市の小箱茶室ケーキ小箱LX紅茶読書自転車好み他-[ダーコーヴァ]/ 伝言板リンク

文市(あやち)=青野宣昭